私が鬱になった経緯(2)

焦ると遅れる
毎日毎日急いでいるが、一向に仕様を確定することができない。我々開発者は仕様確定が遅れれば遅れるほど、開発のリスクが高まる。納品を遅らせることだけは絶対に許されないからだ。よって、仕様決定がスムーズに行くように顧客を誘導する必要がある。リーダーやプロジェクトマネージャーが仕様を取りまとめ、顧客や開発者に伝えるようにする。そうすることで担当者間の認識のズレが減り、組織の力をひとつの方向に向かせる事ができる。
私には、そもそも思考する時間が無かった。よって、資料作成の時間、顧客に事前確認する時間を減らすことにした。
しかし、これが裏目にでる。ステークホルダに対して十分なネゴを取らずに、会議で一発勝負になってしまう。これが原因で強く反発される事が多くなった。特に、こだわりの強いK氏との関係が悪化していたため、決定に至るプロセス自体がネックになってしまっていた。たとえ、正しい事を示していても会議の場で一発勝負は非常に危険である。なぜなら、皆、発言したことを覆したくない心理を持っているため、一旦反対意見が通ってしまうと、元に戻すこと自体が難しくなるからである。
これが次々に連鎖し、何をどう決めればよいのか、どんな提案をすればよいのか、全くわからない状況になっていた。


遅れを遅れると言えない状態
要件が決まらないので当然遅れているはずである。しかし、遅れを明確にすることが許されない。それは、要件定義が遅れていても、次の工程である基本設計をスケジュール通り見切り発車させるからである。それにより、見かけ上のスケジュールは要件定義が遅れていることにしかならない。普通のプロジェクトマネージャであればパンドラの箱に明ける程の決断を要するであろうが、過去に成功してきたA社のプロジェクトでは、常套手段だったから仕方が無いと考えていた。アサインした人の手を空けることは許されないのだ。
見かけ上、フィックスした要件定義書をもとに、見かけ上だけに意味のある基本設計書を書かせる。進捗報告では遅れは無し・・・と報告し続けていた。
遅れていると言えない理由は、すでにプロジェクト全体の動きが全く見えなくなってきていたからである。それを明確にできない限りは、ネガティブな状況報告は許されないのである。


不良在庫の山
基本設計書のレビューを開始しても、まだ要件定義は終わっていない。しかし、基本設計書が「できたこと」になっているため、顧客へレビューしなくてはならない。
要件定義の打ち合わせ地獄のさなか、基本設計書レビューをせざるを得ない状況となった。なぜなら、次のフェーズである詳細設計書の遅れを出してはいけないからである。
とにかく設計書のレビューを終わらせたい一心であったが、そうはいかなかった。内容につじつまが合わなかったり、単純ミスが多かったり、まともな資料になっていない。要件定義書に不備がある上、我々が忙しすぎて、まったく接点が無いのにまともなものができるわけがない。
しかし、遅れるわけにはいかない。レビューで顧客に怒られながら私が訂正を行っていった。


異変
この頃から体に異変が起きていた。

  • (仕事の)悪夢にうなされる
  • 汗かきな体質なのに手足が極度に冷える
  • 手の皮がむけてボロボロになる
  • 手が痺れる
  • 食欲が無くなる
  • 恐怖で顧客とまともに話ができなくなる
  • 出社するのをためらう
  • 気休めで栄養ドリンクを大量に飲む
  • 仕事に集中できず、ぼーっとすることがある

そう。うつ状態だ。このときは自分がうつになるとは思ってもいなかったため、疲れているとしか考えなかった。逆にもっと頑張らなければならないときに弱っている自分を責めた。


重大な決断
この状態が2週ほどつづき、私は心の底でもう限界だと叫び続けていた。全て私が悪いのだ・・・と。こうなったら、ギリギリまで頑張っている姿を見せて、その後、責任を取るしかないと考えていた。ここでいう責任とは、「退職」それで許されないのであれば「死」である。
ある日プロジェクトマネージャに呼び出された。
とうとう私を見捨ててくれるんだと思った。これで終わりだ。終わってくれ・・・

プロジェクトマネージャの話は顧客のK氏をプロジェクトのメンバーから外すという提案だった。プロジェクトの混乱は彼に問題があると。私は更に混乱した。
彼らの要望に応えるため必死にやってきたのに、要望を出している側の問題があるというのなら、そもそも何をすべきだったというのか。そして、彼を外すことで、順調にプロジェクトが進むことを約束する・・・ということは私が主体でもっと頑張らなければならない。更にK氏以外の顧客メンバーからの仕返しが恐ろしい・・・わからない。どうすべきかわからない・・・私には決められない